第5回【人の手が及ばない自然の営み「日本酒」づくり】

日本酒は、お米が生んだ伝統酒

古くから日本酒は、神様にお供えする神聖なものでした。
正月のお 屠蘇 とそ や神棚に供えるお 神酒 みき 、 めでたい席での 三々九度 さんさんくど など、
日本の大切な祝い事に、日本酒は欠かせません。

現代ではお酒といえばビールが主流ですが、 昔は、日本酒を酌み交わすのが一般的でした。

そんな日本酒も、お米と水を原料に作られます。
酒の味を左右するのはお米の良しあし。

私たちが普段食べている品種とは別物の、
特殊で高価な「 酒造好適米 しゅぞうこうてきまい 」を使います。
代表的なのは、 山田錦 やまだにしき 五百万石 ごひゃくまんごく といった高級酒米。
この酒造り向きのお米を精米し、磨き上げます。

お米を磨くことで、日本酒特有の 吟醸香 ぎんじょうか
呼ばれるフルーティーな香り立ちがアップ。
より雑味がなくなり、洗練されたお米の風味を そのまま楽しむことができます。

細やかな技が生み出す奇跡

世界の醸造酒の中でも、日本酒ほど 卓越した技術から生まれたものはありません。

その理由のひとつが、同じ醸造酒の中でも ワインやビールとは比べ物にならないほど
たいへん難易度の高い造り方。
並行複発酵 へいこうふくはっこう 」と呼ばれる、 世界でも類を見ない製造方法です。

並行複発酵は、ひとつの仕込み桶の中で、

・お米に含まれるでんぷんを糖に変える「糖化」
・酵母の働きで糖をアルコールに変化させる「発酵」

を、同時に進めていきます。
3段階の仕込みを約4日間かけて丹念に行うため、 糖度が高くなりすぎず、
確実にアルコールを生成。
低温に管理し、糖化と発酵のバランスを見ながら、 自然の力にゆだねる領域です。

日本人が培った細やかな技術と、 人の手が及ばないところで起こる奇跡の連続。
日本酒はそんな神業が織り成すお酒なのです。

ちなみに、ビールはこの工程を別々のタンクで行い、
ワインは糖分が含まれているので、 酵母を加えるだけで発酵が進みます。

高度な製造工程を踏んで、完成した日本酒は、
蔵元が「吟味して かも す酒」という意味から 吟醸酒 ぎんじょうしゅ とも呼ばれます。

吟醸酒は、他の醸造酒よりも深いうま味、 主張し過ぎない奥ゆかしい味が魅力。
日本の四季と伝統に調和します。